1 青少年を取りまく環境
(1)青少年の現状
あいさつができない。公共の場での基本的なマナーが守れない。自分が家族の一員であることが実感できない。友達と遊ぶことができずひとりでテレビやテレビゲームに浸っている。こういう子どもが多くなっています。
また、学校では不登校やいじめ、学級崩壊といった問題も生じています。
非行の低年齢化、凶悪化、薬物の乱用も大きな問題となっています。夢や目標が持てず前向きな意欲に欠けた子どもや責任を持って職業に就く意識が希薄な青年も増えています。
(2)家庭や地域社会の教育力
戦後、倫理や社会規範に関する教育を軽視した結果、親は子どもを叱ること、誉めることをしなくなっています。また、核家族化などにより、世代間で子育ての知恵が伝えられなくなりました。その結果、親は子育てや教育について自信を失っています。
地域での人間関係の希薄化や少子化による地域の子ども仲間の消滅、テレビゲームの普及や学習塾通い、過度のテレビ視聴などにより、子どもたちは外で遊んだり地域の人々と接する機会を失っています。地域の人々から気軽に声をかけられたり、叱られたり、教えられたりすることもなくなりました。子どもたちが自由に遊べる路地裏や空き地なども減りました。
(3)学校の教育力
これまで学校でも「平等」ということが重視されてきました。しかし、「平等」ということが結果に差をつけないという「結果の平等」になりすぎると、子どもたちは頑張ろうという意欲を持てなくなります。子どもたちが自分の能力を見つけ高めていくためには、学問に限らず、芸術・スポーツ・ものづくりなど、いろいろな分野で競いあえる機会を平等に与えることが必要です。
欧米では、生徒が積極的に意見を述べる「考える授業」により、子どもが主体的に育っています。我が国においても、このような授業をもっと活発に行う必要があります。
学校は、家庭や地域とは違った意味で、社会生活の基本的なルールや社会規範を教える好適な場であると考えます。
2 社会の大きな変化
(1)情報化
インターネットなど情報技術は、私たちの日常生活にとって欠くべからざる道具となってきています。
しかし、情報機器を介した過度の「バーチャル体験」は、五感による直接体験の不足を招き、他人を思いやる心や命の尊さに対する正常な感覚を薄れさせる危険性をはらんでいます。また、各種犯罪の誘因にもなっています。
(2) グローバル化
経済のグローバル化によって企業は世界の中で試練にさらされており、そこで働く人々もまた厳しい競争と自己責任を求められています。雇用形態も非常に多様化し、今までのような終身雇用、年功序列のシステムが崩壊しつつあります。
社会や企業、行政等が求める人間像も、学歴・肩書重視から「何を学んできたか(学習歴)」や「何ができるか(能力)」を重視する方向へと大きく変化しています。
(3) 完全学校週5日制
平成14年(2002年)4月から公立学校の「完全週5日制」が実施されます。
家庭や地域の教育力の低下が指摘されている中で、休日における子どもたちの過ごし方は真剣に検討すべき課題です。完全学校週5日制の趣旨は、家庭での対話や親子のふれあいを増やし、地域でのさまざまな体験活動を通じて視野の広い子どもを育てていこうということです。
しかし、家に閉じこもってテレビを見たり、テレビゲームに没頭する、あるいは、学習塾に行く回数が増えるだけということになりかねません。完全学校週5日制の目的を達成するための環境整備とマンパワー(ボランティア)への配慮などが必要です。
3 青少年アンビシャス運動の目指すもの
以上のような青少年を取りまく環境や社会の変化を踏まえ、今私たちが失いつつある家庭や地域の教育力を取り戻し、全ての青少年が新しい時代をたくましく生きていけるように、社会をあげて取り組むことは喫緊の課題であり、それが「青少年アンビシャス運動」にほかなりません。
すなわちこの「青少年アンビシャス運動」は、「豊かな心、幅広い視野、それぞれの志を持つ(アンビシャスな)たくましい青少年の育成」を目指す福岡県の県民運動です。
ここで、
・「豊かな心」とは
自らに誇りを持ち、他人を思いやり、自然や美しいものに感動するなど毎日の生活を豊かに楽しく過ごすことができる心を持つことです。この「豊かな心」は、世代を超えての大人との交流や友達との楽しい遊び、豊かな自然体験などを通じて育まれます。
・「幅広い視野」とは
自分と社会との関係についてしっかりした考えを持ち、グローバルな視点を身につけることです。この「幅広い視野」は、本を読み、多くの人とつきあい、世界の青少年との交流や「他流試合」を通じて育まれます。
・「それぞれの志を持つ(アンビシャスな)」とは
自分の目標を見つけ、それに挑戦し努力していくことです。
「志」があれば、たとえ失敗しても子どもたちはその経験を生かして自ら成長していきます。この失敗を社会が大らかに見守り、子どもたちが大きく伸びていくよう支援することが大切です。
4 青少年アンビシャス運動展開の3原則
青少年アンビシャス運動は、次の3つの原則に従って推進するべきだと考えます。
(1)「誉めて伸ばそう」の原則
これまで我が国においては、あまりにも「結果の平等」が重視され、伸びていこうとする子どもたちの意欲を弱めてきました。青少年アンビシャス運動は、「結果の平等」の考えから脱却し、子どもたちの持つ可能性を大きく引き出すものでなければなりません。
子どもたちが目標を見いだし、それに向かって努力し成しとげたときに誉められることで達成感や自信が育まれます。それを糧に子どもたちはさらに伸びていきます。
この運動の基本は、子どもたちの前向きに生きていく意欲や行動を積極的に誉め、自立を促すと同時に個性と能力を伸ばすよう支援していくことにあります。
なお、子どもたちが悪いことをしたようなとき、愛情を持ってきちんと叱ることは、誉めて伸ばすことに劣らず重要です。
(2)「自主的参加」の原則
青少年アンビシャス運動は、青少年健全育成を県民全体で具体的に取り組むものです。そのため、この運動の目指すものに共感し推進しようとするグループや組織・団体が名乗りをあげ、自主的にこの運動に参加することが基本です。また、この運動の推進方法の一つとしては、公募方式として参加証を発行することなども考えられます。さらに、この運動には、大人だけでなく青少年も自主的・積極的に参加することが期待されています。
(3)「交流・評価」の原則
この運動を活性化するためには、参加するグループや組織・団体がそれぞれの成果や経験について情報を交換し、新たな発見やノウハウを得て、お互いの向上を図ることが大切です。そのためには次の2つのことが望まれます。
1) 地域ごとまたは運動テーマごとに集まって「活動報告会」を定期的に開催すること。
2) 参加したそれぞれのグループや組織・団体が自らの設定目標をどの程度達成できたかにつき定期的に(原則として2年ごと)調査し、評価すること。
なお、ここでいう評価とは、それぞれの活動がどれだけ浸透したか、あるいは、それらの実践活動によって子どもたちがどう変わったかなど、その成果を客観的に振り返ることです。
また、趣旨にかなう活動をし、立派な成果を挙げた個人や団体に対しては、これを顕彰することも考えられます。
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