会長提出議案 第6号
東日本大震災からの復旧・復興に関する決議(案)
 東日本大震災の発生から13年が経過した。被災自治体においては、迅速な復旧・復興に向けて鋭意努力をしているものの、被災者の心のケアや被災企業への支援、農林水産業の再生等に加え、令和5年8月からALPS処理水の海洋放出が開始されており、風評被害への対応等、解決すべき課題が山積している。
 また、物価高騰等が市民生活や事業活動に大きな影響を及ぼし、被災者一人ひとりが直面している課題は様々であることから、被災地それぞれの状況に応じた柔軟な対応が必要となっている。
 よって、国においては、人口減少や産業空洞化等の中長期的な課題を抱える被災地全体が持続可能で活力ある地域社会を創造できるよう、下記事項について特段の措置を講じることを強く要望する。
1 東日本大震災からの早期復旧・復興について
  (1) 「第2期復興・創生期間」における財政支援
   
@ 震災復興特別交付税等地方財政措置について、被災地の実情に応じ、継続的な措置を講じること。
A 地盤沈下に伴う雨水排水対策として雨水排水ポンプ場を増設したが、雨水排水施設の維持管理費用について特別な財政措置を講じること。
  (2) 被災者の生活再建支援等
   
@ 被災者の生活再建に向けて、雇用対策や被災者支援総合交付金による支援など各種措置の充実強化を図ること。
A 災害援護資金の償還について、自治体の国に対する償還期限を延長するとともに、債権回収に向けた自治体個々の取組に係る経費について助成措置を講じること。
B 生活保護、介護、保健・医療について、被災地の実情に応じた支援措置の充実強化を図ること。
C 災害拠点病院における災害救急医療の増加経費や必要な医師の確保、患者の転院搬送等に要する経費等の負担に対し、支援措置を講じること。
  (3) 地域産業の復旧・復興への支援
   
@ 水産業及び関連産業、地元企業や商店街の本格的な復興など地域産業の復旧・復興に対する支援措置の充実強化等を図ること。
A 交流人口・関係人口や移住者の拡大を図り、魅力あふれる地域を創造するため、新産業の集積や教育・研究機関の誘致について、特段の措置を講じること。
  (4) 伝承活動への支援
    震災の記憶と教訓を後世に伝承していくため、人材育成、研修、情報交換など伝承活動の環境整備に取り組むこと。
2 原子力発電所事故災害への対応について
  (1) 復旧・復興の加速に向けた予算の確保等
   
@ 原子力災害からの創造的復興を成し遂げるため、今後も国が前面に立って、風評払拭や健康管理、心のケアなどに取り組むこと。
A 汚染状況重点調査地域の指定解除後においても、健康影響等が懸念される箇所が新たに判明した場合には、不安解消や環境回復措置について永続的な支援策を講じるとともに、将来的に国の責任において実施すること。
B 津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金における補助対象要件の拡充・見直しを行うこと。
  (2) 除染の推進及び除染土壌等の適切な運用管理等
   
@ 山林の除染手法に関する調査研究を強化し、効率的で効果的な除染手法を早期に確立すること。
A 現場保管における搬出困難事案の解消について、制度設計と財源の確保を行うとともに、将来的に、搬出困難事案の対応は国の責任において最後まで実施すること。
B リアルタイム線量測定システムの配置の適正化にあたっては、関係自治体や地域住民の意向を十分に踏まえ、配置基準や諸手続きを示すこと。
C 仮置場等の土地返還後、農地の機能回復が十分に図られない場合の補完費用の財政措置に柔軟に対応するとともに、農作物等の減収等が生じた場合の財政措置を講じること。
D 除去土壌等の福島県外での最終処分に向けた計画を提示すること。
E 放射性物質による汚染への対応について安全基準や具体的対策を示すとともに、除染費用や放射性物質の濃度測定等に要する経費の全額を国において負担すること。
F 農林業系汚染廃棄物について、処理加速化事業を継続するとともに、適切な処理の促進と最終処分までの適切な保管のため、技術的・財政的支援を継続すること。
  (3) ALPS処理水の海洋放出に係る適切な対応
   
@ ALPS処理水の海洋放出が開始され、中国等においては日本産食品の輸入が規制されるなど、今後更なる風評が懸念されていることから、万全の措置を講じるよう、東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)に対し強く指導すること。
A 安全かつ着実なALPS処理水の海洋放出の実施に向け、海水や魚類等のトリチウム濃度について正確な情報を発信するとともに、放出停止を判断する値を超えて検出した場合は、速やかに放出を停止するよう東京電力に対し指導すること。
B ALPS処理水について、国内外において科学的根拠に基づく正確な情報発信を行い、更なる理解醸成に全力で取り組むよう、東京電力に対し指導すること。
C トリチウムの分離技術については、実用化の可能性を前向きに評価し、当該技術の実用化に向けて全力を尽くすよう、東京電力に対し指導すること。
D 汚染水の発生を抑制し、将来的には防止するように、国内外の様々な知見を参考にしながら抜本的な対策を講じるよう、東京電力に対し指導すること。
E ALPSの前処理で発生する液体状の放射性汚泥であるスラリーについて、その安定化処理設備の早期運用開始に向け注力するよう、東京電力に対し指導すること。
F 一日でも早く福島第一原子力発電所の廃止が完了するように、廃炉作業の着実な進捗に全力で取り組むよう、東京電力に対し指導すること。
G ALPS処理水の海洋放出による影響を受ける全ての事業者の生業が継続できるように、万全の支援策を講じるよう、東京電力に対し指導すること。
  (4) 健康管理体制の充実
   
@ 福島県県民健康調査における甲状腺検査結果について、より詳細な推定甲状腺被ばく線量を用いた検討をするなど引き続き適切に評価するよう努めること。
A 健康異常が早期発見できる徹底した健康管理体制を堅持するとともに、その費用の全額国庫負担を継続すること。
  (5) 産業の復興と再生
   
@ 原子力災害に伴う風評を払しょくするための取組を強化するとともに、風評による損害に対する完全な賠償を早急に行うよう、東京電力に対し強く指導すること。
A 原子力災害に伴う風評は、ALPS処理水の海洋放出の影響も加わり、観光産業に深刻な影響を及ぼしているため、観光地のハード整備及び各種観光施策等について財政措置を講じること。
B ALPS処理水の海洋放出に伴う新たな風評の発生は、企業誘致活動や地域経済への影響が少なくないため、津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金と同等の補助制度を創設するとともに、工業団地やインフラの整備など企業誘致に係る助成制度の充実を図ること。
C 安全な農産物を提供するため、効果的な放射性物質吸収抑制技術を確立するとともに、吸収抑制対策に係る支援の継続と拡充を図ること。
  (6) 原子力損害賠償の適切な実施及び迅速化
   
@ 被災者が独自に行った除染費用や個人・法人及び自治体が被ったすべての損害に対し、適切で迅速な賠償を行うよう、東京電力に対し強く指導すること。
A 原子力災害に伴う市税等の減収分及び住民の各種検査や風評被害対策に要する費用などについては、原発事故との因果関係が明らかであることから、迅速かつ確実に賠償を行うよう、東京電力に働きかけること。
B ALPS処理水の海洋放出により損害が生じた場合には、円滑に賠償するスキームを構築し、速やかな賠償を実施すること。
  (7) 被災者支援
   
@ 避難指示区域等における国民健康保険の被保険者について、長期に及ぶ減免措置に伴う納税・納付や滞納整理に係る経費への財政支援を継続するとともに、高齢者をはじめ被災住民のヘルスケアに係る支援制度の創設及び財政支援を実施すること。
A 避難住民の一時帰宅等の経済負担を軽減するため、高速道路の無料措置を継続するとともに、その適用範囲を拡大すること。
  (8) 捕獲した有害鳥獣の処理
    増加する有害鳥獣の処理が適切に実施できるよう、広域的な規模での処理体制に係る財政措置を講じること。
 
   以上決議する。
令和6年5月22日
全国市議会議長会